現代アートの敷居を低くするという試みは、一見すると簡単なように思える。
しかし、実際にはそれほど単純な問題ではない。何故なら、私たちが目指すべきは「安いアート」を売ることでは決してないからだ。
確かに、低価格で購入しやすいアートを提供する手段は存在する。プリント作品や小規模な作品、新人アーティストの作品、またはイラストレーションなど、安価なアートの選択肢は確かにマーケットを広げる可能性がある。
しかし、この方法だけでは、アート市場の本質的な拡大には繋がらない。
重要なのは、ただ「安いから買いやすい」という要素に留まらず、購入者がその作品の価値を理解し、将来的にその価値がどのように高まっていくかというストーリーが描けるかどうかだ。
そのためには、アートの購入における第一歩として「価格表記」の明示が不可欠である。
価格が不明確なままでは、顧客は購入を決断しにくい。
透明性のある価格設定は、アートに対する敷居を低くし、新たな顧客層を引き寄せるための第一歩となる。それと同時に、安価だからといってその作品が一時的な流行に過ぎないものとして扱われることを避けるためには、作品の「ストーリー」をしっかりと伝える必要がある。
アートの価値というのは、単なる価格で測れるものではない。
どんなに素晴らしい作品でも、周囲がそれを理解し、共感し、愛してこそ、その価値が認められる。
そして、このプロセスには時間とストーリーが必要不可欠だ。
つまり、アートは「今は安いけれども、時間をかけてその良さを世の中に伝え、最終的に価値が高まる」という、長期的なストーリー性を持つべきなのだ。
では、どうすればそのストーリーを伝えられるだろうか。
鍵となるのは、個々の作品に対する「物語」をしっかりと描き、その物語を顧客に伝えることだ。
しかし、現代アートはそのコンセプト自体が難解であることが多く、しばしばその説明が更に理解を遠ざけてしまうのが現実だ。
特に、アーティスト自身が作品の説明において過度に難解な言葉や形而上的な表現を使い、まるで自分が賢く見せたいかのように「ポエム」めいた文章を作り上げてしまうことがある。
このような状況では、アートの理解がますます難しくなり、結果的に多くの人々がアートに対して興味を失ってしまう。
アーティストが、自身の内面や哲学を表現したいという気持ちは理解できる。しかし、それを「理解する側」の立場から見ると、あまりにも難解で抽象的な表現は、アートを遠ざける要因になりかねないのだ。
作品の背後にあるコンセプトやメッセージが「分かりにくい」と感じられた時、それはその作品が真に持つ価値を伝える機会を失うことになる。
特に日本のアート市場においては、未だに「アートは難解でなければならない」という誤った先入観が根強く残っている。
アートを過度に学術的で堅苦しいものとして提示することが、しばしば「知的であること」の証明のように思われがちだ。
しかし、実際には、作品を理解すること自体が「難しいもの」という先入観を植え付け、アートから遠ざけているのだ。
例えば、アーティストが説明文でわざと難解な言葉を並べ立てたり、抽象的な哲学的議論を展開することがよくある。
しかし、これが果たしてアートの価値を正しく伝えるために有効だろうか?私たちはこうした方法を敢えて批判するべきである。
なぜなら、アートが持つべき本来の魅力は、直感的に感じ取れるものであり、誰でも理解できる形で伝わるべきだからだ。
タグボートとしては、この点を強く意識している。
アートの説明は、決してアカデミックな言葉や難解な理論で固めるべきではない。むしろ、ファンや新規の顧客が気軽にアートに触れ、共感できるような分かりやすい言葉で伝えることこそが重要である。
小学校6年生でも理解できるような、シンプルで明快な説明が求められているのだ。
アートの敷居を低くするためには、まずその説明の方法を根本から見直さなければならない。
日本のアート市場は、世界的にはまだまだ発展途上にあり、顧客層を拡大するためには、新規の顧客が感じる「とっつきにくさ」を取り除く必要がある。
そのためには、難解なアート説明を避け、シンプルで親しみやすい言葉でアートを紹介することが不可欠だ。
アートを誰もが気軽に楽しめるものにするためには、まずはアートの「敷居」を低くし、さらにその背後にある価値やストーリーを伝えやすくする努力が必要だ。
それは単なる「価格を安くすること」ではなく、アートそのものがもつ「魅力」を多くの人々に届けることに他ならない。
そして、タグボートとしては、この方向性を堅持し、常にアートの敷居を低くするために努力し続けることを宣言する。
コラム著者のX(Twitter)はこちら
https://newspicks.com/topics/contemporary-art/
2025年2月21日(金) ~ 3月11日(火)
営業時間:11:00-19:00 休廊:日月祝
※初日2月21日(金)は17:00オープンとなります。
※オープニングレセプション:2月21日(金)18:00-20:00
入場無料・予約不要
会場:tagboat 〒103-0006 東京都中央区日本橋富沢町7-1 ザ・パークレックス人形町 1F
tagboatのギャラリーにて、現代アーティスト手島領、南村杞憂、フルフォード素馨による3人展「Plastics」を開催いたします。「Plastics」では、表面的な印象や偽りの中に潜む本質を提示した3名のアーティストによる作品を展示いたします。